「厚生労働省カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」についてのかんたんな解説
カスタマーハラスメント対策企業マニュアルとは
「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(「マニュアル」といいます。)は、2022年に厚労省が作成した網羅的な資料で、2024年7月現在においても、カスハラについて検討するにあたり、最も有益な資料といえます。全体として60ページあり、ご紹介しても日常業務で忙しい実務担当者の方にはなかなか紹介しても読んでいただけないことが多いです。
このマニュアルの内容をさらに7ページに凝縮したのが、「カスタマーハラスメント対策リーフレット」、すべてを1枚にまとめたものが「カスタマーハラスメント対策啓発ポスター」となっています。リーフレットを読むのがおすすめです。
カスハラの定義と判断基準
マニュアルでは、カスハラを「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段、態様により、労働者の就業環境が害されるもの」としてひとまずの定義がなされています。
判断基準としては、①顧客等の要求内容に妥当性があるか②要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当か
という大きく二つの要素が記載されています。
実務では、「顧客からのクレームは毎日ある。どれをカスハラとして処理したらいいかわからない」という声が上がります。マニュアルでは行為を類型化していますが、やはり限界があり、実務とのギャップを埋める作業は我々弁護士や実務担当者に委ねられています。
カスハラ対策の基本的な枠組
マニュアルでは事前対応・実際に発生した際の対応とを分けて説明がなされています。カスハラの個別対応も重要ですが、事前対応の有無で個別対応が変わってくる点にも注意が必要です。
事前対応
① 事業主の基本方針・基本姿勢の明確化/従業員への周知啓発
② 従業員のための相談対応体制の整備
③ 対応方法・手順の策定
④ 社内対応ルールの従業員等への教育・研修
実際に発生した際の対応
① 事実関係の正確な確認と事案への対応
② 従業員への配慮の措置
③ 再発防止のための措置
④ プライバシー保護や不利益取り扱い禁止等その他の措置
カスハラに発展させないために
また、マニュアルでは、カスハラを発生させないよう、具体的にどのような対応が望ましいのかを解説しています。対象を明確化して謝罪する、といった内容は、どういった態様でハラスメントが行われるかを問わず、サービスに非があった場合の対応の一つのヒントになると考えられます。
検討すべき課題
マニュアルが公開されたことは非常に有益ですが、なお検討すべき課題は残ります。
本マニュアルでは、カスハラを行う顧客に対して、会社がどのような処置をとってよいのか、どのレベルの行為に対し、どのような措置が適当なのか、という一番知りたい部分ははっきりしていません。こちらについても実務担当者や、弁護士に検討を委ねられている部分と考えてよいと思われます。
個人的な見解としては、取引の経緯やハラスメントの態様なども踏まえつつではありますが、取引からの離脱・あるいはそれが難しければ取引の縮小を行うことについて、あまり謙抑的になる必要はないのではないかと考えています。